現代日本女装少年史

 初めに

 この文章では、現代日本のサブカルチャーにおける男の娘の歴史について述べる。


 (1)異性愛規範の破壊

 この世界には異性を愛さなくてはならないという規範が存在するから、男の娘を恋愛対象や性的対象と見なせない男性が多い。それでも、江口寿史『ストップ!!ひばりくん!』(1981〜'83)の大空ひばりや小野敏洋『バーコードファイター』('92〜'94)の有栖川桜は、そんな規範を壊し、男の娘を恋愛対象や性的対象と見なす人を生み出した。

 桜は、最初は女性だと思われており、第11話で初めて男性だと分かる。キャラクターが最初から男性だと分かっている場合、読者はそのことを分かったうえでキャラクターを恋愛対象と見なすかどうか決められる。

 一方、途中で男性だと分かる場合、読者はその時にはもうキャラクターを恋愛対象と見なしており、キャラクターを愛し続けるかどうか決断を迫られる。『バーコードファイター』でも、桜ちゃんガチ恋勢は桜を愛し続けるかどうか決断を迫られ、その結果桜を愛し続けた人が多かった。

 その後、小野敏洋(上連雀三平)は子供向け漫画の登場人物を作者本人の手でエロ漫画に登場させるという快挙を成し遂げた。


 (2)ショタアンソロジーの隆盛

 '97年〜'99年頃、ショタアンソロジーと呼ばれる本が大量に発行されていた。ショタアンソロジーとは、成人男性と少年か少年同士があんなことやこんなことをしているところを描いた漫画を集めた本である。夢のような時代である。だけど、'90年代のショタアンソロジーでは、ショタと女装はまだ結び付いていなかった。

 '99年、児童ポルノ禁止法が施行されると、出版社は、ショタアンソロジーの発行を自主規制し、ショタアンソロジーは、殆ど全滅した。その後、2002年頃になって、ショタアンソロジーは復活した。


 (3)性的嗜好の革命

 2002年、アークシステムワークス『GUILTY GEAR XXイグゼクス [The Midnight Carnival]』のブリジットが登場した。ブリジットは、ショタと女装を結び付けるという革命を起こし、男の娘の描き方を進歩させた。


 (4)僕たちの苦悩

 21世紀に入ると、セクシュアルマイノリティがどんな人たちか、社会が認識していった。それとともに、志村貴子『放浪息子』('02〜'13)や宮野ともちか『ゆびさきミルクティー』('03〜'10)など、男の娘の心情を描く作品が描かれた。

 これらの作品では、登場人物が自分の性自認が何か分からず迷ったり、周りの人が自分を受け入れてくれないせいで傷付いたり、成長したくないのに体が成長するせいで悩んだりする様子が描かれている。


 (5)漫画からゲームへ

 '00年代半ばから、女装少年がキャラメルBOX『処女オトメお姉さまボクに恋してる』('05)やういんどみる『はぴねす!』('05)などのエロゲに進出した。

 『はぴねす!』の渡良瀬準によって、顔は少女に見えるけど体は少年という、男の娘の描き方が確立した。準は、ヒロインじゃなくて主人公の友達なのに、ヒロインである神坂春姫はるひたちよりも人気が出て、登場人物の人気投票で1位を取ってしまった。困ったものだ。


 終わりに

 2023年現在、男の娘は以前ほどは注目されていないけど、キャラクターの類型の1つとして定着した。未来の男の娘を楽しみに待っていよう。


 参考文献

 『ユリイカ』第47巻第13号、青土社、2015年

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