激情

 (1)好き好き大嫌い

 あなたは、この気持ちを感じたことがあるだろうか? この気持ちは、正確に表す語が日本語にないから表現するのが難しいけど、最も近い語は「おぞましい」かもしれない。この気持ちとは、降りしきる恐怖の雨と、押しよせる悲哀の波と、燃えさかる興奮の炎を同時に感じる気持ちだ。

 僕は、この気持ちの引き金になる作品を、理性よりも感情で好きになる。ところが、僕はそれと同時にこれらの作品を嫌いにもなるんだ。


 (2)3人の少年

 この気持ちを引き起こす作品には、星逢ひろとか、ツヅキ真宵とか、福島鉄平とかの漫画がある。

 例えば、星逢ひろの「お荷物」では、男娼の少年は売春宿に来た客に犯され、小間使いの少年は売春宿を経営するおじさんに犯される。ツヅキ真宵の「デタッチ」に登場するひーくんという少年は、親から虐待を受けている。福島鉄平の「アマリリス」に登場するジャンという少年は、アマリリスという店に来た客からセクハラを受けている。

 要するに、これらの作品の共通点は、物理的か精神的かを問わず、少年が暴力を受けることだ。これらの作品は、僕の気持ちをこの上なく良く表している。つまり、僕は少年たちに共感しているんだ。

 僕は、売春をしているわけでもないし、親から虐待を受けているわけでもないし、はたまたセクハラを受けているわけでもない。それなのに少年たちに共感するなんて、おかしな話だ。


 (3)人間的な、あまりに人間的な

 人が悲しむのを嫌いながら、僕がそんな話をよく読むのは、弱い人になりきり、強い人を憎み、自分の言動に迷い、ひとの言動に悩むのが楽しいからだ。僕は、どこまでも親切で、しかもどこまでも残酷な、人間らしい人間が登場する物語を求めている。僕が感じるのと同じ気持ちを感じる人はいるんだろうか?

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